vol.22 「四十にして惑わず」〜淡路島編〜

浅い呼吸のまま。
薄い空気の中でしばらく走り抜けていた日々。
そうして辿り着いた羽田空港。
到着した瞬間から、私は蘇生するかのように深呼吸をした。


信州で生まれ育った私は、
地元で生きることに、いつしか窮屈さを覚えていた。

「あぁ、S会社のお嬢さんなのね。」
「S社長のお子さんなのね。」と、幾度となく言われてきた。

祖父が創業し、その2代目が父親で。
地元には、私が知らない知り合いが大勢いた。

鳴門海峡の渦潮を見下ろしながら。
自分の中で消化しきれない感情を見るかのように。
自然のそれが、そうであるように。
私の内面で渦巻く感情というものは、ごく自然であるということなのだと。

時に好奇の目で、品定めされているような居心地の悪さ。
多くの場合は可愛がられたが、あからさまに嫌味を言われたりもした。

私の反応に何かを期待するよりも、「父を知っている」という事実を伝えられ
ることの所在なさ。

知らずに身につけていた処世術。

周りの大人は、子どもの私達に話しかけた。
私は、笑顔で応じる。
その人のことを、私が知らなくても。

そうやって、相手に与える印象を良くする術を心得る。
子どもの頃から、大人と話すことはごく自然のことだった。

淡路島を縦断しながら。

北に位置する明石海峡大橋を訪れた。
1泊二日の旅なのに、両日の天気の違いに驚きもしなくなる。
それ程までに、このリコ旅は天気が荒れる。毎度の事であった。
私の感情の起伏を空が代弁するかのように。

初日の心地よい秋空は面影も無く、明け方から土砂降りの雨で目覚めた翌朝。
どこかで「やっぱりね。」と思う自分が既に存在した。

窮屈さが嫌で海外に飛び出し、帰国して進学した東京の4年制大学。
就職活動は、地元以外の放送局に照準を合わせて。
地元へのUターンは考えていなかった。

それなのに。
人生とは、実に皮肉なもので。

結局、地元の放送局に拾われ、
喋り手としてのキャリアをスタートさせたものの。
これからという時、アッサリと結婚をして再上京した20代後半。

何もかも断ち切って。
新しい人生を始めるという覚悟と期待を胸に。
ゼロから始めるということをしたかったのだと思う。

それから私は「普通」の主婦になり「普通」の生活を送った。
平穏でいることの尊さ。

「この中で生活しなさい。」というフレームがあることの安心感を初めて知った。

窓から眺める世界一の吊り橋を、枠に納めて眺めながら。
私は、橋を渡ってその向こうに行きたいという衝動に駆られたのだった。

明石海峡大橋は、無資質に幾何学的に美しく、圧倒的な存在感を放つ。

「橋を渡る。」

そのことだけを目的として、車で往復した。
その「渡った。」という事実が、私をわたし色にする作業。

それから私は、その幸せに感謝しながらも。
このまま一生を終えてしまうことへの疑念を抱くようになるまでに、
10年の月日が流れていた。

二人の子を産み育てる中で、私の個性が主張を始めた。
一度しか無い人生を、このまま誰かのためだけに捧げていていいのだろうか。
私はわたしを生き切らずして、本当に幸せなのだろうか。
その後ろ姿を見て育つ我が子達は、どういう大人になりたいと願うだろうか。

そうして私はわたしを呼び覚まし、どうなりたいのかを摸索し始めた。

誰かに委ねるだけの人生では、満たされない。
誰かに捧げるだけの人生では、満たせない。

誰かを主語にしていたら、自分を生きたまま殺してしまうことになる。

それから気付いた。
私には、何も無い。何も残っていない。
中途半端なプライドだけを持ち合せて、途方に暮れた。

海のない県で育った私にとって。
果てしなく水平線の広がる景色は、憧れのようであり、どこか受け入れてもらえていないような場違いな感覚。

リセットにしたのは自分で望んでいたことなのに。
何も持っていないことの非力さに、努力をしてこなかったことに。

ようやく私は、自分の名前でキャリアを重ね始めた。

そうしたら。
今度は、地元と同じように。
東京でも、世間は狭くなるのだった。

だから。
今は、より一層に旅が重要になる。
誰も私のことを知らない土地へ。
好奇心の赴くままに。

*補足*
家業は、地元で創業71年を迎える企業。弟が3代目を継いでいる。
嫁いだにも関わらず、毎年必ず年末年始は帰省するという小姑振りも発揮している。
  
※タイトルは、孔子「論語」より
 
 

あわじ浜離宮 (兵庫県・淡路島)
http://www.awajihamarikyu.com

お好み焼ゆかり 天王寺ミオプラザ館店
http://www.yukarichan.co.jp

淡路島オニオンキッチン
http://eki.uzunokuni.com/etc/hamburger.html

みちの駅うずしお(鳴門海峡大橋)
http://eki.uzunokuni.com

みちの駅あわじ(明石海峡大橋)
http://userweb.awaji-bb.jp/awaji/

淡路夢舞台
http://www.yumebutai.co.jp

鮓 希凛(明石海峡大橋)
https://moonjelly-resort.com/sushi/