vol.60 早春の穏やかな休息と、江之浦測候所の存在に〜三輪湯河原編〜

いくつもの波を乗り越えて。
ようやく落ち着いた2月半ば。
私は湯河原の温泉に浸かり。
療養するかのように、時を過ごしていた。

華美でない佇まいに惹かれて。
竹林の向こう側をぼんやりと眺める。

新宿にある私の会社は、コロナ禍に陥ったことで、
非対面型のビジネスとして、3つの事業をスタートさせた。
想定外の出来事に、私は事業転換の流れにまかせて、なんとか泳いできたように思う。
この1年は、誰もが新しい生活様式に対応すべく試行錯誤を繰り返したことだろう。

娘の高校受験もひと段落し。
休息の時間をずっと欲していて。
ようやく疾走する日々から、徒歩ペースで進む日々を過ごしている。

函館にある高校に進学を決めたのは、中3の夏頃だっただろうか。
それまでは漠然と佐賀の高校を第一志望にしていたけれど。
進路選択というのは、調べ出したら切りがないと実感した。

娘にとって、寮のある高校が第一条件だった。
私は、国内留学の情報を集めたり、知り合いに話を聞くなどをして。
家を出たい。という娘の意思は固く。
そのために勉強をするモチベーションを維持していた。

「どうして寮生活なの?」
「どうしてそんなに遠くへ行きたいの?」
一応、そんなことを尋ねてみたけれど。
正直なところ、そんなに特別なことではないと思っていた。
海外へ留学したりしたら、より私は諸手を挙げて喜んだことだろう。

家に留める理由などなく。
周りが多少納得するような理由が言えたらいいわね。と、能天気な会話を重ねて。

2度目の緊急事態宣言が発令されて。
予定されていた現地(函館)での面接は、zoomでの試験となった。
この面接の試験がなければ、私は娘に立居振る舞いや、受け答えの指導をする機会を持てなかっただろう。
娘は素直に私の話を聞き、一生懸命に実践で練習をした。
本番での多少の早口を指摘したけれどよく、楽しそうに受け答えする姿に。
「よくできたね。」と言葉を掛けた。

翌々日には、速達で合格通知が届き。
まずは安堵しながら。

さらに娘は、目標にしていたスカラシップ特典を目指して勉強を続けて。
取れても取れなくても、もう合格しているのだから。
どこまで本気になってやるのだろうかと、私は様子を見ていた。

ある朝、食事をしながら私が不意に発した言葉に娘は不安定になり、涙を流して取り乱した。
あぁ、本気でやっていたのね。ごめんね。
それが感じられないから、ついちゃんとやっているのか確認したくなったのよ。

それくらい悔しければ、結果がどうであれやり切ればいい。そう思いながら。
その日は遅刻をして。私は、母親として学校に電話を入れた。

その数週間後、翌々日に控えた試験日を前に、福島県沖地震が発生した。
予約していたJRの切符をキャンセルし、飛行機に切り替えて。
試験前日に函館入りをし、制服の採寸を済ませて翌日の本番に臨む。
付き添いは夫で、私は息子と自宅に残った。

試験を終えて帰宅予定だったけれど、数年に一度の爆弾低気圧のため飛行機さえもキャンセルになり、いつ帰れるのか分からなくなったりして。
それでもやり切ったことには変わりなく、自己採点はまずまず良かったとの報告を受けた。
数学は、1問だけ間違えたという報告に気をよくしたけれど、
得意の英語の見直しをして、9割程度だろうか。
国語はどうだろう。と自己採点も難しいので、結果を待つことにした。

試験から10日後の合格発表。
郵送で届いた封筒を開けて。
仕事の電話をしている最中に、リビングで大騒ぎしている声が聞こえてきた。

もしかして・・と電話を終えてリビングに行くと。
「ママ!取れたよ!!」と、歓喜の娘。

きゃーーーぁぁ。と飛び跳ねながら、娘と手を取り合って喜ぶ姿は、あたかもそれが正しい歓喜表現方法のように身体中で嬉しさを共有した。

あぁ、よかったね。
よく頑張ったね。と、頭を撫でて。
努力が身を結んだ結果だと、
自分のことよりもずっと嬉しく感じることに。

普段ひねくれている息子も素直に乾杯をしてくれて。
娘の合格を改めて祝った。

喜怒哀楽をそのまま表現する我が子を見て。
15歳で離れてしまうことに淋しさを覚えるけれど。
それ以上に、自分の道を進もうとする頼もしさに。
応援すること以外、何があるだろうか。

これからもっともっと沢山のことを吸収して。
みんなに可愛がってもらってらっしゃいね。

そんなことを考えながら。
私の人生は、これからも続いていく。
他者と比べることでの優位性ではなく。
尊重しあえるような人間関係を構築できるような人であって欲しい。
そう願いながら。

我が子たちの幸せを願い。
母として、私らしく生きていくことを続けていく覚悟をして。

久しぶりに訪れたアートの空間で。
私は心が満たされていく感覚に浸った。
自然と人工物のマリアージュに。
私は自然と笑みが溢れた。

<訪問先>
三輪 湯河原
https://miwayugawara.jp/

江之裏測候所
https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

サドルバックカフェ
http://saddle-back.com/cafe/

キンプトン新宿東京
https://www.kimptonshinjuku.com/jp/