里山十帖 〜雪絶景に抱かれて〜

早朝発の上越新幹線。
幾度目かのこの旅の始まりを、いつになく忙(せわ)しない空気を孕む東京駅から出発した。

するりとシートにもたれ掛かり、車窓を眺める。
長いトンネルを抜けると、そこには銀世界が広がっていた。

行き先の天気など全然想像していなかっただけに、
突然「旅」のスイッチに切り替わる。

凍える空気を吸い込むと、身体の中から生温(なまぬる)い息が吐き出される。
東京から運んできてしまった空気を、
越後湯沢の駅が何事もなかったかのように包み込んでくれた。

ハラハラと落ちる雪に、故郷の景色を重ねる。
安心感を覚えるのは、生まれ育った環境がそうさせるのだろう。

大地の芸術祭の里として、各所に芸術作品が建築物や作品が点在していた。
広大な自然の中に佇む作品の数々はそれだけで際立ち、感性を刺激する。

駅に降りてからずっと、大粒の雪が歓迎してくれていた。
1時間の積雪が数センチ程になると、たやすく予想される降り方だった。

今回の旅テーマは、「休息と滋養」。

PCを置いてきた。読みかけの本も持たず。
そこにあるもので過ごすこと。

150年前からの古民家を移築し、リノベーションした宿は、モダンな内装・家具・雑貨・照明が配置されたシンプルながらも計算され尽くした贅。

骨董級のお椀やお皿に盛りつけられた料理、厳選された食材。
旬の野菜尽くしの晩餐を、地酒と一緒にいただく。

大地の恵。
人の愛情と時間が感じられる食材と空間で。
それまでの日常から、優しく置き換えられた自分の時間。

滞在しながら、ここの存在についての想いに触れる。
それは、文章で、空間で、食事で。

人は、何をもって居心地がいいと感じるのだろうか。
「贅沢」というものは、何を指すのだろうか。

誰かにその時間やお金を費やせることを誇示し、主張することをしないと、自分が贅沢をしていると思えないのであれば、どんなことをしたとしても満足することはないだろう。

インターネットで世界中の人と瞬時に「つながれる」ようになって久しい今、リアルタイムで「つながらないこと」を、意図して選択する。

賢者はこうして身を潜め、自分に滋養を注ぐ。
厳選された食材を摂り、用意された空間と食事に身を委ねる。

こうして非日常に飛び込み、また現実に還る。
この旅は、溜った煤(すす)を払い落とす時間となった。

凝縮して駆け抜けているからこそ、この神秘な力に感嘆し、自分の小ささと可能性を見出す。

何も纏わず、ただひたすらに拡がる自然と対峙する。
針葉樹に降り積もる雪。
時の流れを体感しながら。


里山十帖 created by 自由人
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大地の芸術祭の里
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・越後妻有里山現代美術館[キナーレ]
・光の館
・まつだい農舞台
・越後松之山「森の学校」キョロロ